「ホドロフスキーのDUNE」をシアターセブンで見た

ホドロフスキーのDUNE」 フランク・パヴィッチ監督 2013年

「エル・トポ」「サンタ・サングレ」とホドロフスキーを見て、なんとものすごい映画を作るひとがいるものだと感心したので、ホドロフスキーについてのドキュメンタリー映画も見に行った。

しばらく前から京都大阪あたりで上映していたのだけれど、もう今の時期は大阪の十三のシアターセブンという映画館でしかやっていなかったので、十三まで行ってきた。立地は駅前で便利なのが良いけれど、十三の駅前なので異常に治安が悪い。第七藝術劇場と同じビルに入っていて、そのビルが風俗街みたいなところの真ん中にある。非常に怖かった。夜中7時からの上映に行ったけれど、女のひとは1人で行かないほうがよさそう。

シアターセブンで映画を観るのは初めてで、おそらく僕が今まで行った映画館の中で一番小さな劇場だった。スクリーンはそこそこの大きさだけれども、デジタル上映の設備(民生用みたいなプロジェクター)しかなくて、客席が非常に狭い。椅子も映画館としては安っぽくて、何よりスピーカーがただのBOSEのスピーカーをステレオに置いてあって、僕の家のほうが音が良い。予告が最悪のビデオ映画みたいなのしかなくて逆に面白かったのだけれど、ここでちゃんとした映画を観るのは厳しいと思った。

ホドロフスキーのDUNE」については、とにかくホドロフスキーのカリスマ性というか、狂気に圧倒された。本当に心の底から自分が作るものは世の中で最高のもので、歴史を変えると信じている狂気であった。80歳を超えているにもかかわらず活気が爆発していて、強い訛りの英語に擬音語擬態語を織り交ぜてブシュルルルっと喋っていた。

ホドロフスキーの教祖としての才能で世界中から本物の天才を集めて映画を作るという行動は、今から見ると確実に失敗することが見えていて、当時はわからなかったのだろうかと思った。資金の段取り無しに映画を作り始めるような勢いがある時代だったのか。

とりあえず主人公役にすると決めた息子に二年間武道の稽古をさせるというのが特に勢いがあって良かった。息子は「エル・トポ」でずっと服を着せてもらえず全裸の役で、親父に振り回され続けている。ついでにまた両腕切断シーンを構想していたようで、どれだけ両腕を切断したいのかと思った。

ダリにどうしても出て欲しいからダリと変な交渉を繰り広げるというのが、いかにもサクセスストーリーらしくて面白かったけれども、よく考えるとサクセスはしていない。ホドロフスキーに活気がありすぎて、注意深く考えないとつい騙されてしまう。スティーブ・ジョブズのプレゼンは静かに騙してきたけれども、ホドロフスキーは完全に発狂しながら騙してくる。その思い込みが、生まれ持った天才なのだろう。

一流のスタッフを集めて一流のアイデアを凝縮させた結果、映画として結実しなくてもその構想が他の作品に受け継がれた、というのは、高尚な芸術の世界のようでもあり、業界の安っぽい裏事情のようでもあり、興味深かった。DUNEはブレードランナーに影響を与えて、ブレードランナー攻殻機動隊に影響を与えている。僕が高校のときに大ハマリした大友克洋にも与える影響は大きかったようで、いろいろなところで世界はつながっている。その世界は天才が爆発的に創造したものから派生しているのだ。

一番はじめの映画「ファンドとリス」、一番異常そうな「ホーリー・マウンテン」、最新作の「リアリティのダンス」も面白そうなので、機会を探して見てみたい。


映画『ホドロフスキーのDUNE』予告編 - YouTube

 

余談としては映画の最後10分くらいで映像が突然乱れてブロックノイズが入り、センタースピーカーの音声が左からしか聞こえなくなったのが面白かった。シアターセブンは手作り感がある。今まで映画を観ていて映像が乱れたのはこの他にあと1回しかなくて、そのときは京都シネマゴダールのフォーエヴァー・モーツァルトを観ていた。途中で画面がぼやけたのだけれど、わけのわからない映画だからそういう演出なのかなと思って観ていて、出るときに無料券をもらったのを覚えている。最終上映で次が無かったから、お詫びの無料券が2枚だった。シアターセブンは特に何もしてくれなかったけど、面白い体験ができた。