情感のこもった音楽

 ここしばらく毎日ベッシー・スミスを聴いている。CDを1枚しか持っていないので、毎日同じCDを聴き続けている。

マーティン・スコセッシのブルース

マーティン・スコセッシのブルース

 

  ベッシー・スミスは1920年代、30年代のブルースを歌う。ブルースの女帝。まさに女帝だと思う。ジャズの世界でいうとビリー・ホリデイか。古すぎて録音の音質が今とぜんぜん違うのだけれど、それにしても本当に良い。何が良いのか説明はつかない。静かにかつ強力に引っぱり出されるような感じ。バックバンドの演奏も全然違って、音数が少なくて、リズムがずれてるのかなんなのか勝手に吹いてるような雰囲気が流れる。


Bessie Smith (Send Me To The Electric Chair, 1927 ...

これはアルバムの中で一番気に入っている曲で、「裁判官、彼を殺した私をただ電気椅子に送ってくれ」とお願いする、たいへん暗い歌詞の歌。曲も良い曲だと思う。'Taint Nobody's Bizness If I Doというブルースの定番曲も入っている。曲名が省略されていて黒人っぽい。果てしないつらさも、ブルースの良さのひとつ。

 

 関連して、中島みゆきの良さを再確認しつつある。

元気ですか

元気ですか

 

 「元気ですか」というCDに入っている、「化粧」という曲が凄い名曲だと思う。「化粧なんてどうでもいいと思ってきたけれど せめて今夜だけでも きれいになりたい」という冒頭がじつに素晴らしい。酷い男に捨てられた女が自分の馬鹿さを嘆く、たいへん暗い歌詞の歌。それにしても中島みゆきの歌のうまさは尋常ではない。テレビに映るようなポップスは苦手なのが多いけれど、中島みゆきは天才だと思う。この「元気ですか」というCDはベスト盤だけれど、スポイルされずに良い曲が集まっている気がする。アルバム名と同じ「元気ですか」という曲が入っていて、既に曲ですらなく、セリフでずっと捨てられた男との物語と恨み事を延べ続ける。こういうことをやっているひとがテレビに出て歌っていたというのは、豊かなことだと思う。

 

 女の人が歌う暗い歌をもうひとつくらい書きたいと思ったけれど、最近聴いてる中で女の人の暗い歌は他に無かったので、負けないくらい歌がうまくて、感情がこもっている歌ということで、オーティス・レディングを挙げる。

Otis Blue

Otis Blue

 

 このCDはステレオの振り方がおかしくて、声が右チャンネルだけから流れてきたりするので、iPhoneとイヤホンで聴くときはアクセシビリティからモノラルオーディオをONにするとちょうど良い。有名なI've Been Loving You Too Longが入っている。オーティス・レディングは映像で初めて見て、この声がオーティス・レディングだったのか、と知った。とにかく歌がうまい。どんな行いをしたらこんなに優しい声が出るのかと思う。Satisfactionはローリング・ストーンズのカバーだけれど、はじめからオーティス・レディングの持ち歌であるかのような表現ができている。表現というより表出であって、オーティス・レディングは体内から音楽を発露させている。興奮の中にいるにもかかわらず抑制された感じがソウルっぽい。爆発しているのではなく、爆発寸前。

 

 

 今まであまり情感のこもった音楽というのは好まなかったように思うけれども、ベッシー・スミスがあまりに良いので、見なおしてきている。もしかしたら演歌みたいなジャンルも良いと感じるかもしれない。しばらくは古いブルースを聴きそう。