内定式

 今日は10月3日だけれど、10月1日が土曜だったので、世の中の大企業が内定式を行う日だ。内定前に内々定が決まっているのに、内定を宣言するという不思議な行事が内定式らしい。

 僕は去年の10日1日に内定式に出ていたのかというと、内定式がそもそも無かった。去年は経団連が「面接は8月解禁」と約束し、その上、経団連の会長がいる大企業が自分で決めた約束を守らず、5月末から6月に内々定を出し始めるという特殊な年だった。

 僕の就職活動は予想通り経歴の悪さから難航し、皆から大幅に遅れて8月に大阪の中小企業に内定した。

 

 内々定ではなく内定である。内定通知書が入った封筒が8月中に届いた。

 

 つまり、経団連のルールなんて、中小企業には関係がなかった。だから大企業の文化である内定式なんていうのもなかった。ある意味爽快だけれど、研究室の同期は皆、誰もが知っている大企業に内定をもらっていて、ひとりだけ取り残されたような気がして寂しい気持ちもあった。聞くところによると、僕の行く会社の全社員数の何倍も新卒採用をしているらしかった。

 そんな気持ちを察してか、人事部が10月1日に内定式の代わりに工場見学を企画してくれた。なるほど、合理的な企画だ。というのも、面接で選考が開始し、スピーディーに内定したので、工場見学どころか説明会にも行っていなかった。

 

 10月1日、緊張してスーツを着て工場に向かうと、事前に聞いていたとおり、内定者は僕一人だった。

 

 人事部の担当者が気さくで話しやすいひとだから良かったものの、さすがに一対一はどうなのかと感じざるをえなかった。まだその頃の僕は、会社にそれなりの公式な対応を望んでいたように思う。けれど、公式な対応なんていうのは、そういうシステムが必要な大企業のためにあるもので、内定者1人の場合、皆の平均に合わせる必要がないから、実は公式な対応なんていうものは無いのだ。

 工場見学は楽しいもので、たった一人の内定者に対して、数人の担当者がつきっきりで工場を順番に案内してくれた。会社には誰もが知っている商品があり、その製造ラインも見た。工場は巨大で効率的、さらに清潔であり、説明会で行った他の大企業と何の変わりもなかった。

 

 結局、4月に入社した新卒は僕ともう一人だけだった。彼が内定したのは12月らしい。ただ一人の同期は関東の工場に配属が決まっており、僕は技術職として大阪本社勤務になるので、一緒なのは最初の研修だけだった。

 

 そういうわけで、内定者が1人だと、内定式は開かれない。今年は内定者が何人かいたらしく、内定式のようなものが催されたらしい。同じ勤務地に配属になる同期がいるというのは、なんとも羨ましく感じる。

 

追記:指導してくれた先生の名誉のために言うと、今の会社しか受からなかったわけではなく、ある分野で世界1位の外資系大企業にもほぼ同時に受かっていた。大企業を断って中小企業を選んだのだ。